コミュニティユースワーカー活動報告

NPO法人PIECESが運営するコミュニティーユースワーカーの活動報告ブログ

学習支援における居場所の形成

現在、PIECESでは各自治体の「学習支援」にコミュニティ・ユース・ワーカー(以下、CYW)を派遣することや、研修の提供を行っています。
貧困世帯(主に生活保護世帯)への支援として「学習支援」が行政主導で行われたのは、5,6年前のことです。そしてその学習支援という支援形態は、今や全国に広がり、東京では多くの自治体が実施しています。
 
貧困世帯への「学習支援」において、わたしたち大人に求められるのは、大きく2つあり、1つは勉強を教えるということと、もう一つは「居場所をつくる」ことです。勉強をいかに教えるかは塾などが知識やノウハウを持っているので、その解説は他の人に譲るとして、私たちは学習支援のなかに、いかにして居場所の要素を形成するかについて整理したいと思います。
 
◆学習支援に居場所の要素はなぜ必要?
多くの学習支援は、生活保護世帯やひとり親・就学援助を受けている生徒たちを対象として運営されています。
彼らは、単にお金がないから塾に行けないということ以上に、彼学習に対する意欲がそもそもなかったり、学習を押し付けられることに反発を覚えていたりする状態にあります。そのような状態になっている背景には、家庭に関心を持ってくれる人がいない(虐待をうけている)、学校でいじめを受けたなどの人間関係における困難があります。
多くの一般の生徒は、家庭や学校の人間関係において安心・安全の獲得を行っていますが、私たちが対象とする子たちは、上述したような事情で家庭や学校で人間関係に困難があるので、それ以外の社会(第三の場所)がその部分をおぎなう必要があります。ここに、勉強を行うための前段階として、「学習支援」において「居場所」を形成する必要がでてきます。
つまり、その子が学習に取り組んだり、興味関心を持ったり、悩みを相談したりする行動の前に、その子自身が、他人や場所に安心・安全を感じる「居場所」をもつ必要があります。居場所の要素とは簡単に言うと、「あなたは無条件で素晴らしい存在」と伝えることです。
 
下記の図のように、私たちは、このような子どもたちとの関わりの段階を、CYWの関わりのフェーズとしてまとめました。
 
 
 

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<図:CYWと子どもとの関わりのフェーズ>
 
 
現在、学校や塾では、勉強ができることが一つのステータスになっていますが、多くの貧困世帯の子たちは、学力的にも遅れている場合が多いです(その背景には、様々な物理的環境の問題、家庭の問題、社会的な問題があります)。
それゆえ、勉強ができない・授業について行けないということがあると、学校や塾に居心地の悪さを感じてしまう子たちがいます。だからこそ、そうした子たちを一番キャッチしている「学習支援」では、勉強一辺倒の価値観を持つのではなく、「居場所の要素」を持たせることが良いのではないかと私たちは思っています。
(子ども食堂のような居場所メインの場が増え、中学生対象の子ども食堂などあれば良いのですが)
 
◆居場所の要素を学習支援に組み込む
では、居場所の要素はどのようにして学習支援のなかに組み込むことができるのでしょうか。
居場所のためには、まずは彼らを「あなたは無条件で素晴らしい存在」として受け止め、信頼関係を築いていくことが重要になります。
 この関係性をつくるためには、大人は、自分自身の価値観を押し付けないというようなマインドセットや子どもと接するスキルが必要になっていきます。
そして、次にポイントになるのは、勉強と居場所の両立です。そもそも学習支援は勉強を目的とする場です。無条件に子ども達が承認される居場所とは真逆の目的を持ちます。勉強と居場所という矛盾する2者のバランスをどうとっていくかが今後の学習支援には重要になってくると思います。
 
そして、その両立のために考え無くてはならないのが、対象となっている生徒が現在どのような状態にあるか?ということです。多くの「学習支援」の対象になっている生徒を分類すると、以下のような図になると考えます。
 

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A君しか場にいない場合は、居場所よりも勉強を優先しても問題なく場が運営されますが、B君がいる場合には勉強と居場所の両立が必要となってきます(中には、対象を絞って学習意欲の高い子たちだけを相手にしている場もありますが、多くの場にB君がいると思います)。
 
現在、幾つかの団体から研修の依頼が来ており、支援の難しい子を見てほしい、スタッフの研修をしてほしいという依頼が来ています。相談内容の多くは、B君(状態:学習支援に抵抗あり)の対応に困っているというようなことです。
では、そのB君にどのような対応をしたら良いのでしょうか。
 
 
◆学週支援におけるCYWの意義
そこで、PIECESでは、B君への対応について、既存の学習支援を運営しているNPOに対して研修やスーパーバイズ、もしくはCYWの派遣を行っています。そして、上述したB君とC君に対応するときに必要な信頼関係の構築と勉強と居場所の両立を行う人材を育成しようとしているのが、CYWの育成事業になります。※CYWとは、はこちら。
 
主にCYWは、C君(様々な支援(学習支援も含む)から漏れをてしまう子たち)へアウトリーチをし、信頼関係を築き、子ども達と社会をつなげていく活動を行います。
アウトリーチとして、地域の人や団体をネットワークし、地域の人や様々な支援機関と連携し、子ども達につながっている人と繋がります。また、芋づる式と私たちは呼んでいますが子ども達にも直接アウトリーチをしていきます。こうしたアウトリーチから、学習支援につながっていない子、はみ出してしまった子達をキャッチし、学習支援や適切な支援につなげることを行っています。
 
 
◆さいごに
ここまで学習支援が広がり、各地で学習支援が行われるようになってきました。
ここまで広がったことで救われる子が増えましたが、これからは広がった学習支援の質が向上していくことが必要になるのではと思っています。
その際に、子どもに接する人たちに対して研修を行い、質の向上を図っていく必要があります。
これからの学習支援には人材育成の研修が必要になっていくことと思います。
 
NPO法人PIECES
コミュニティユースワーカー育成プログラム責任者
荒井佑介